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vol85   4 / 8

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茨城県立中央病院名誉院長 永井 秀雄 茨城県では、よろこびの会の皆さまにもご協力をいただき、学校でのがん教育を進めています。私も 教室に呼ばれれば、子どものときからの生活習慣ががんの予防に役立つことを生徒に話すようにしてい ます。ときには保健担当の教員や養護教諭から「がん教育のあり方」というテーマで講演を頼まれるこ ともあります。 先日は常総市学校保健会総会に呼ばれ、五月晴れのなか水海道小学校に出かけて行きました。常総は 遠いような印象があったため常磐道経由で早めに出かけたところ、1 時間たらずで着いてしまいました。 余りに早すぎたため、昨年9 月の水害の跡を訪ねてみました。緑あふれる田園に災害の名残はほとんど なく、好天気だと洪水の予感すら持てませんでした。鬼怒川や小貝川がどこを流れているのか見当もつ きません。 浸水で機能麻痺した常総市役所に寄ってみました。やはり出水の跡はありませんでした。ふと見上げ ると、鉄塔に水防月間の垂れ幕が下がっていました(写真左)。「洪水から守ろう みんなの地域、茨城県・ 茨城県河川協会・常総市」。昨年の水害を教訓にしたのかと思いましたが、垂れ幕は新品とは言えず、水 防月間が5 月というのも引っかかりました。 がん教育のあり方についての講演のあと、調べてみました。昭和61 年8 月の台風10 号による豪雨水 害が契機となり、国は翌年から毎年、出水期前の5月を水防月間とすることにしたのでした。しかも、 この30 年前の台風10 号による被害は「関東東北水害」と呼ばれ、当時の石下町(今の常総市)で小貝 川の堤防が決壊したのでした。何という皮肉でしょう。昨年の水害も「関東東北豪雨」と呼ばれ、同じ 旧石下町から水没していったのです。 水害直前の昨年5 月の水防月間のポスターは「百年に一度は明日かもしれない」という警告でした(写 真中央)。今年のポスターは、鬼怒川決壊の生々しい写真を載せ「命を奪う濁流となった」という事実の 報告でした(写真右)。要するに、人が死んだ、ということです。 実は昨年9 月10 日朝、決壊5 時間前、茨城県全域に大雨特別警報が出ました。特別警報は「直ちに命 を守る行動をとること」を意味します。それに対して多くの県民が、また行政が余りに無関心でした。 予知ができたにもかかわらず、です。 命の大切さが分かっていても、予防はむずかしい。洪水しかり、地震しかり、がんしかり。でも諦め てはだめだ。あらためて強く感じました。 永井先生連載シリーズ 第4回「常総で感じたこと〜予防のむずかしさ」 4